小川洋子「博士の愛した数式」に心がホロリ

ちょっと白井一成には似合わないかもしれないが、とても好きな本がある。小川洋子「博士の愛した数式」だ。映画かドラマになったと記憶している。だから知っている人も多いだろう。確か、博士役が寺尾聰で、「私」役が深津絵里だった。ほのぼのとした幸せを感じられる。ただし、最後は切ない。

舞台は瀬戸内海に面した小さな街。「私」は64歳の元数学の大学講師の家で家政婦として働くことになる。博士は47歳のとき交通事故にあい、80分しか記憶をとどめることができない。雇い主は博士の義姉。

博士は常に背広を着てネクタイをしめている。毎朝「私」に「君の靴のサイズはいくつかね?」と聞く。博士のスーツにはたくさんのメモがクリップで留められていて、メモには数字や記号が書いてある。そしてその中には「僕の記憶は80分しかもたない」というメモも。悲しいシーンだ。それほど涙もろくない白井一成だが、ここで少しだけ心がシンとした。そしてそのメモの中に「新しい家政婦さん」というメモが増える。似顔絵まで書いてある。さらに、「私」に10歳の息子がいることを知った博士は、子どもを一人にしておいてはいけない、と一緒に連れてくるように言う。

博士のあたたかさが心に沁みる。そして “数学”が展開される3人の不思議な日常。息子は博士にルートと呼ばれる。博士はルートに宿題を出す。それを発表すると、博士は立ち上がって「すばらしい!」と拍手をする。博士との会話の中で、心を成長させる「私」。「私」と一緒に読者も成長する気がした。

白井一成の読む本の中に、小川洋子はなかった。女性の友達に紹介されて何となく読んだ本だった。それがこんなにステキな本だったとは。思いもかけず、心があたたまり、そして忘れられない本になった。なんか、小川洋子さんの本を読みたくなった。