白井一成は音楽は好きだ。主に聴くのは洋楽だが、今回この本を読んで、クラシックもいいかもしれない、なんて思ってしまった。恩田陸の「蜜蜂と遠雷」。白井一成はピアノを弾かない。音楽は大好きだが、クラシックは聴かない。この本は才能を持つ4人のピアニストたちの話だ。コンクールに出て、自分の才能をぶつけ合いながら成長をしていく、というストーリー。
登場人物は天才と呼ばれるマサル、母の死後ピアノを弾いていない亜夜、楽器店勤務の明石、そして音楽の勉強などしたこともなく、養蜂の仕事をしている塵。登場人物たちの背景設定もおもしろい。このさまざまな背景を持つ人物がどのようにかかわり、どのような音楽を繰り広げるのか、展開が楽しみでグイグイと物語の中に引き込まれる。
バッハ、ショパン、ブラームスなど音楽の授業で習った作曲家たちの音楽を身近に感じる。中学校の音楽室に、作曲家たちの写真のようなイラストが貼ってあったことは覚えているが、彼らの曲にはあまり興味がなかった。それなのに、この本を読んでいると、すごくよく分かるのだ。その音楽の魅力が。音がするわけでもないのに、映画感で音楽を聴いているわけでもないのに、音楽が聴こえてくる。
感動的な本だった。多くの人がそう言っている。白井一成も心からそう思った。音楽に対する彼らの情熱がひしひしと感じられる。こんなにも音楽を、ピアノを人は愛することができるのか、と思えるほど、強い思いが伝わってくる。音楽に対する価値観の違いはあっても、4人の登場人物が音楽とピアノが大好き、ということが伝わってきて、気持ちがいい。登場人物一人ひとりがとても魅力的で、彼らの発する言葉や行動を、何度も読み返す、ということを繰り返しながら読み進んだ本だ。